倒産の実態
2021年07月14日

実録:倒産の現場(社員説明会)に立ち会ってきた

東京の都心部にある会社。
経営者が従業員に告げる「倒産のその日」に立ち会ってきた。

その会社の社員は、
社内にいる人よりも社外の現場に出ているほうが多いので、
通常の就業時間が過ぎた夜7時に集められた。

会社の一番大きな会議室。
一番奥のテーブルに、
社長と弁護士がこちらに向いて座り、少し離れたテーブルに取締役が2名。
手前には社員が20名ほど。

社長が口火を切って語り始めた。
少し緊張しているようだった。

「今日、急に集まってもらったのは、この会社が今日で倒産するからです。
大変申し訳ない。」

椅子から立ちあがって社員に向かって深々と頭を下げた。

「大変残念なことですが、資金が続かなくなり、会社の事業継続は本日でできなくなったのです。」

社員の平均年齢は30歳くらい。
ため息も聞こえる。
貧乏ゆすりも見える。
半分は社長の顔を見ていた。
残りの半分は下を向いている。

一番後ろで見ていた私にも、社員が衝撃を受けているのが伝わってくる。

ただし、予測されていたことが
今、起こっているというような、ゆるやかな衝撃だ。

以降、順次以下のことを説明した。

・債務総額は約5億2,000万円。
・理由は、事業の売上減、利益減による資金不足による。
・本日を持って会社は倒産となる。社員諸君は解雇せざるを得ない。
・給与はこの後で給与明細とともに手渡す。
・解雇になるので、解雇手当を一か月分を給与に加えて支給する。
・離職票は間に合わなかったので、数日後に郵送する。
・社員諸君はその離職票をハローワークに持っていって失業手続きをしてほしい。
・会社は倒産処理に入る。
・ここにいる代理人の弁護士が会社の倒産処理を行う。
・会社にある私物は、本日中に持って退出すること。
・明日以降は、代理人の弁護士の立会いがなければ会社には入れない。
・継続中の仕事をどうするかは、役員とプロジェクト・リーダーが得意先と調整する。
・継続的に参加するかどうかは諸君の意思次第。

そして。

「大変申し訳ない。しかし、これ以上事業を続けていくと、損失が大きくなって、諸君に給与が支払えなくなるおそれがあったので決断したのです。どうか、理解していただきたい。」

社長にとって、社員に倒産を直接告げることは大変つらいことだが、
この社長は凛とした態度でそれをやり遂げた。

内容はシビアだが口調は優しかった。

弁護士が補足説明をする。

・当職がこの会社の破産処理を受任した弁護士である。
・これ以降、社長は当事者能力を失う。この会社の管理責任者は当職になる。
・代表者である社長は、個人で会社の借入債務などの連帯保証をしている。
・社長は個人財産を供出してこの責任を取る。
・社員の給与や解雇手当が支給されない倒産は多い。
・この会社ではそれが支給できたことは、経営者の努力の結果として認めてあげてほしい。
・今夜、この会社の入り口に張り紙をしてこの会社は入れなくなる。
・社員諸君の私物については本日中に持ち出してほしい。

質疑応答になった。

質問を受けるといわれても、何をどう質問するかもわからない様子で、
会場は少しざわついていた。

社員たちは、衝撃はあるが、大きな衝撃という印象ではない。
淡々と事態を受け入れているようだった。

雇用保険(失業保険)、私物搬出に関していくつかの質問があった。

私物の搬出は、本日中には出しきれないということだったので、
後日弁護士の立会いで会社を開けることを確認した。

ひとりの社員がつぶやくように発言した。

「俺の友人の勤めていた会社がこの間、倒産したんだ。
でもその会社の社長は逃げちゃって、給料も解雇手当ももらえなくて大騒ぎしているんだ。
それに比べればまだいいかもしれない…」

この説明会は終了し、社員は給与と解雇手当をサインして受けとった。

継続中の仕事にどう対応するかは、担当する役員と個別に打ち合わせをはじめた。
ほとんどが後日の打ち合わせを約して、携帯電話での連絡方法を確認していた。

このように、整然と大きなトラブルもなく、倒産についての社員説明が行われることは稀だ。

これが実現できた要因は、
労働債権(給与と解雇手当)が支払われたことが最も大きい。

次に、この会社の社長のキャラクターと社員の質がよかったこと。

そして、事前に社長、役員、弁護士とわたしが充分に打ち合わせを重ねることができていたことだろう。

社員たちが私物を整理して会社を退出した後、
会社の役員と弁護士が会社の入り口に張り紙をして会社を出た。

深夜だった。

※補足
[倒産のその日]といっても、この日は[事業を停止した日]と[代理人(弁護士)の介入日]である。
裁判所への法人の破産の申立ては、代理人が債権者と連絡を取り、債務の全体像が判明した後で行われる予定である。

【倒産のその日(弁護士介入の日)に立ち会ってきた】も参照ください。

(初出:2012年12月18日 修正:2021年1月25日)

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