[放置] 小規模零細企業や個人事業者の倒産処理(最も多いケース)【改定】
年商1,000万円程度の小規模零細な事業体(会社や個人事業)は多い。
年商500万円程度の零細事業体もかなりあるようだ。
そうした小規模零細企業の経営的な行き詰まりはどうなるのか。
事業継続ができなくなる最終段階は、おおむね資金的な問題になる。
事業の行き詰まり
・売上が落ちてくる。
・利益率も悪くなる。
・資金調達ができなくなる。
・金融機関は融資に応じてくれない。
・個人資産も投入してきたが限界だ。
・税金が払えなくなる。
・光熱水費も支払いに遅延が出る。
・仕入資金(買掛金)も締日支払日通りには支払えなくなる。
・金融機関からの融資はとっくにリスケした。
・利息だけにしてもらったのに、その利息が払えなくなる。
・社員の給与が払えなくなる。
・社長の給与もほとんどもらえなくなっている。
そして、来月末(今月の場合もあるし、再来月の場合もあるだろうが…)に資金ショートする。
この資金ショートをクリアしなければ事業の継続はもうできない。
債権者は、許してはくれないだろう。
…果たしてどうするか。
税理士など会計士に相談しても結論は出ない。
事業家同士(経営者同士)に相談してもいい答えは出てこない。
家族に相談しても途方に暮れるだけ。
社員には相談できない。
債務を残して事業を停止するのは[倒産]となる。
どうやら、[倒産]が目の前に迫っていることを知る。
債務の内容と対応方法
以下は、一例である。
債権者は
・金融機関が一件、300万円 (社長の個人保証)
・税金の未納がある、100万円
・買掛先が三件、合計230万円
・光熱水費はある、合計20万円
・給与未払がある、合計50万円
・事業所(お店)の引き渡し原状回復費が、100万円
・債務総額は、総計で800万円。
これだけ資金がなければ事業は継続できない。
一部を長期の延払いにしていただいたとしても、いずれまた資金ショートが起ることが目に見えている。
法的処理をするべきなのは判っている。
しかし、法的処理([法人の破産])の費用は;
・[法人の破産の予納金]は、負債総額5,000万円未満(これが最低ランク)なので、[70万円]。
・社長の[個人破産の場合の予納金]は、[50万円]。会社と併せると[120万円]。
・[弁護士費用]がそれ以外に[120万円]。
・ここまでで[240万円]。
[少額管財]が適用された場合には;
・[少額管財]が適用されても[事業体と社長個人の予納金]で[20万円]。
・これも[弁護士費用]として[150万円]。
・少額管財の場合の総計は[170万円]
コンサルタントに頼めば、さらに費用が掛かる。
資金がないので、到底、法的処理はできない。
処理の方向性
望ましくはないが[放置]するしかない。
[放置逃亡]の道を選ぶ方も多い。
だが、せめて、[逃亡]はしないで問題解決をしよう。
・金融機関からの債務は、社長が連帯保証をしていたとしても、差押えできる財産もないのであれば、時効(五年)が来ればなくなる。
請求書や内容証明は来るが、財産がなければ差し押さえられることもない。
・税金の未納は、長期の延払いで支払って行かなければならない。
事業体の税金は請求される事業体がなくなれば、税務署は何もできない。
個人の税金は長期にわたっても支払わなければ行政サービスが受けられなくなる。
・買掛先の債務は、会って相談してみるしかない。
これは交渉によって決まる。
全額放棄していただけることもあれば、一部延払いになることもある。
こればかりは、相手のあることなので予断を許さない。
・光熱水費は、これも差押えできる財産もないので、時効(五年)が来ればなくなる。
当面、請求書は来るが、財産がなければ差し押さえられることもない。
・給与の未払いは払わなければならない。少し時間はかかるが払おう。
これは、事業経営者にとってもっとも後味の悪い債務なので、話しあって支払うべきだろう。
・事業所(お店)の原状回復は、大家さんと話し合ってこれも長期の延払いにしてもらおう。
これも相手のあることなので、交渉によって解決される。
※ これらの債務がどう決着するかは、ほとんどが債権者との交渉次第になるため、決着のかたちは予断を許さないが、おおむねここに書かれたような形で終結することが多いようだ。
事業体は(それが会社であろうが個人事業であろうが)、事業を辞めてしまえば存在がなくなってしまうものだ。
よって、事業体が契約したものは、事業体がなくなってしまえば、請求を受ける事業体がなくなってしまうことになる。
しかし、事業体の債務の契約(約束)によって発生したもの(社長が発注したもの)だから、それが払えないということは、“約束が守れなかった”という事実は残る。
このことから、債権者からは意図的にそうしたのは[詐欺]だ、と責められることになる。
その約束は事業体の責任者である社長がした約束であるから、社長が道義的な請求を受けることからは免れないのだ。
少なくとも、債権者はそう考えることが多い。
よって、このような[放置]の方法で事業を終わらせたとしても、社長は債権者に追われるものだ。
法的には、請求を受ける会社がなくなってしまうのだから、社長個人が請求を受けることはない、とはいうものの、債権者はそうは考えないものだ。
この[放置]の方法は[任意整理]…
この方法を、弁護士を代理人に立てて解決するのを[任意整理(私的整理)]と呼ぶ。
弁護士を雇わないで社長がこれを勧めるのも広義の[任意整理]と呼ぶこともできると思うが、一般的に弁護士を介さないのは[放置]と呼ばれることが多い。
その違いは、弁護士が債権者の同意を取り付けるか、うやむやのまま終結するか、だ。
事業体と社長はその後どうなうか
債務超過で資金不足のため、零細事業体(会社であっても個人事業であっても)は事業を停止した。
[法的処理]はせず、[放置]することになった。
[逃亡]するかどうかは、大きな分岐点なのは、よくわかっている。
[逃亡]することはせずに、債権者と向き合ったが、債務を解決する資金はない。
この状態で、社長のその後はどうなるか。
社長が個人保証した債務があろうとなかろうと、差し押さえられるような個人財産(預貯金、株式、不動産、車、など)がなければ、生活に影響は出ない。
生活に必要な動産が差し押さえられることはない。
そのような状況であることが判れば、裁判を起こしてくることは、ないものだが、もし裁判が起こされても、財産がないのだから差し押さえられることはない。
ただ時効が先延ばしになるだけだ。
要は、債権者との“話し合い”がついていて、了解されていれば問題は起こらないのである。
ここがこの[放置]の最大のポイントであろう。
社員の未払い給与などは払わないわけにはいかないし、自分の生活(家族の生活)もあるからただちに働かなくてはならない。
この段階で就業(就社)しても、問題は起こらない。
こうした倒産社長はまた会社の社長になれるのだろうか。
今は、破産者であっても(まだ破産者の身分の状態でも)、法人の代表者にはなれるようになった。
そのことから、この状態で新たに個人事業を始めることはできる。
もちろん、新たに会社を設立して代表取締役に収まることも問題はない。
この[放置]の問題点
このようなかたち、すなわち[放置]が倒産後の最も多い事後処理なのである。
しかし、上にあるような前の事業の債務を放置している状態だと、債権者は黙ってはいないだろう。
逆の立場になればうなずけることだろう。
この問題は、法的な問題ではなく約束が守れなかったという“道義的な問題”として重くのしかかることになる。
債権者の同意が得られれば胸を張って歩くことは難しいだろうが、下を向いて歩くことはないが、一部とはいえ同意が得られないと、胸を張ることもできず、下を向いて生きていかなければならなくなる。
それは、再起への影響として出てくることになる。
再起不能、再起に時間がかかる、後ろめたい思いを抱えた再起、…。
ここが、この処理の問題点である。
法的処理である破産管財人が出てくる[法人の破産]処理や、私的処理で代理人の弁護士を立てて処理する[任意整理(私的整理)]であれば、ニュートラルな処理になるので債権者のオフィシャルな同意が得られることになり、決して下を向いて歩くことなく、胸を張って生きていくことができるのだ。
わたしとしては“再起”にためにはそちらの方法をお勧めしている。
こうした件で悩まれている経営者は、どうか相談に来られたい。
以下の項目も参照されたい。
[倒産処理を甘く見るな]
[倒産ー放置逃亡ー時効]
[倒産の判断はいつするのか①(倒産時の二つの様相)]
[放置逃亡が、なくならない]
[放置逃亡するとどうなるか]
※ このエントリーは2017年10月23日に作成したものだが、より判りやすくするために2017年12月20日に修正をした。