倒産の実態
2018年04月15日

偏頗弁済(へんぱべんさい)とは

経営危機コンサルタント・内藤明亜のブログです。

今回は、「破産申立て」をするに至った経営者が気をつけるべき問題【偏頗弁済(へんぱべんさい)】について解説します。

倒産に際して、

・連鎖倒産を防ぎたい

・お金を貸してくれた親族に迷惑をかけたくない

とお考えの経営者の皆さんはぜひお読みください。

偏頗弁済(へんぱべんさい)とは何か


破産申立てに際して「偏頗弁済は認められない」とはよく言われることですが、この「偏頗弁済(へんぱべんさい)」という耳慣れない言葉についてまずはご説明します。

偏頗弁済行為とは、破産処理の大原則ですが、「すべての債権者に対して平等に返済(配当)しなければならない」という決まりを破ること、すなわち「特定の誰かに偏って支払ったり返済したりすること」を指します。

主に、倒産直前にこれを行うことを言います。

*偏頗とは、“頗る(すこぶる)、偏って(かたよって)”いること。

破産申立て後に、「これは偏頗弁済である」と債権者に指摘されたり破産管財人によって否認されると、「詐害行為取消権」によって返還しなければならなくなることがありますので注意が必要な問題なのです。

では具体的にはどういう行為が偏頗弁済となるのでしょうか。


どのような行為が偏頗弁済になるのか


偏頗弁済とは具体的には、

・破産申立て直前に特定の買掛金を支払うこと

・破産申立て直前に特定の借入を返済すること

です。

要は、【詐害行為とは】

のページで述べた「破産申立て直前に特定の債権者に支払いを起こしたり返済すること」がこれに該当します。

偏頗弁済は、詐害行為の一つの形(最も多い形)と言えます。

なお、「頗る(すこぶる)」つまり極端な場合だけがこれにあたると解釈できそうですが、実はその明確な基準はありません。

破産申立てにおける「偏頗弁済」3つのハードル

破産申立てをする際に、「偏頗弁済」だと見なされるとどのような問題があるのでしょうか。

運用上は、以下のように大きく3つの問題があります。

①申立て代理人の弁護士に受任していただけない


破産申立てをする前に、申立て代理人をお願いしたい弁護士に相談に行った際に、明らかな偏頗弁済があれば、その弁護士に受任していただけないことがあります。

②破産管財人に見抜かれて否認される


破産申立て後に、破産管財人に「これは偏頗弁済だ」と見抜かれ否認された場合には、支払ったり返済したりした現金は、元に戻されることになってしまいます。

また場合によっては破産管財人によって裁判が起こされることもあります。

③あまりに悪質な場合、裁判官によって破産は認められても、[免責]が得られなくなる可能性がある


このような事態に陥った場合は、何のために破産するのか意味がなくなってしまいます。

このように「偏頗弁済」だと見なされた場合、破産申立の処理がスムーズに進まないばかりか、最悪の場合は免責が得られないという大きな不利益が生じてしまうのです。

そして、ここにはこうした運用上の問題以外に、実は大変大きな問題が横たわっています。

どうしても手当てしなければならない相手の存在


それは、自社が破産申立てすることで連鎖倒産しそうな買掛先があったり、返済しなければその後の人間関係を大きく毀損するであろう親族からの借入があったりした場合です。

彼らに対し何の手当もせずに破産申立てをしてしまえば、仮に申立て後に回収できた売掛金や不動産を処分した現金があったとしても、優先債権である税金や社会保険に充てられてしまうか、債権者への配当や破産管財人の報酬になってしまうのです。

つまり、連鎖倒産しそうな買掛先や、どうしても返済したい個人(親族などへの借入)にはまわらないのです。

本来、倒産する者の意志としては、連鎖倒産しそうな買掛金にや、個人(親族など)からの借入金の返済や回したいのですが、それをすると「偏頗弁済」と見なされ「詐害行為」になる危険性があるのです。

このような場合に、申立て代理人の弁護士に相談するとどうなるのでしょうか。

「ノー!」と言われるのは避けられません。

上述した一つ目のハードルです。

なぜならば、その後破産管財人に発見されて、一も二もなく「詐害行為取消権」を発動される(上述の二つ目のハードルだ)ことを恐れるからです。

偏頗弁済とならずに”手当て”するための最大の要素


では、この問題をいかに解決すべきなのでしょうか。

一般論で片づけることは難しいのですが、この問題には以下のような要因が絡んできます。

・倒産の全体の規模に対して、優先して支払いたい債務の比率

・優先して支払いたい債権者の数

・その債権額

・支払いから破産 申立てまでの期間

・事業停止から破産申し立てまでの期間

・債権者の全体像(数と金額)

・申立て代理人の弁護士は協力的か否か

これらの要因から分かるのは、申立て前処理の段階で”手当て”すれば救済はあり得る、ということです。

つまり、ポイントとなる最大の要素は「申立てまでの時間」なのです。

一定の時間が経由してからの申立てであれば、救済される可能性はあり得るのです。

わたしの長年の経験から、破産申立てまでに半年以上の時間があれば救済の可能性は高い、と言えるでしょう。

ですのでわたしは、「経営危機に瀕したら一日でも早く相談に来てください」と、ここかしこで申し上げているのです。

*詳しくは、 [申立て前処理について] をご参照いただければと思います。

偏頗弁済とならずに”手当て”するための2つめの要素


もう一つは、申立て代理人の弁護士が協力的かどうか、です。
ハナから「一切の返済や支払いを認めない」というスタンスの弁護士には相談するまでもありません。

一方 、破産管財人に咎められないぎりぎりのところを知恵を絞って共に考えてくださる弁護士もいることはいるのです。

どうか、「そういう有能な弁護士を確保していただきたい」と心から思います。

ところが一般的には、

弁護士にとって、申立て代理人を受任するということは、単に地裁に破産の申立てを行うことを意味しているに過ぎません。

悲しいかな、倒産後の経営者の利益を守る、すなわち「倒産後の経営者の人間関係を慮った」り、「買掛先や親族の利益を守った」り、することは、受任の領域には含まれていないのです。

なので、受任費用があまりにも安い弁護士には、こうした「経営者の利益を守る」というスタンスは期待できないと思って差し支えありません。

しかし、倒産する経営者にとっては、仮に偏頗弁済と見なされて詐害行為取消権が行使される可能性があっても、優先的に救済すべき債権者はできうる限り救済したいというのが本音でしょう。

実際に破産処理の運用では、詐害行為取消権が行使されたとしても(される可能性がある場合でも)、その弁済分だけ元に戻せばいいのですから。

また、詐害行為があるケースでは破産自体が認められないということにはならず、詐害行為取消権が行使された分だけ元に戻せば破産処理は実現できるのです。

そうした可能性があるのに、本来は依頼人の利益を守るべき申立て代理人が、その芽を摘んでしまうのは本末転倒ですが、倒産処理の運用を知らない弁護士や、地裁への申立てだけをすればいいと考えている弁護士だと受任していただけないことは大変に多いのです。

実は破産申立て代理人弁護士にとってはデリケートな問題


「協力的な弁護士に委任する必要があるが、そういう弁護士は限られている」と述べたのにはもう一つ理由があります。

それは、これらの問題において、申立て代理人の弁護士にとっては申立て後に破産管財人とやりあう局面も想定でき、非合法なことではないものの「懲戒問題」にも及びかねない大変デリケートな要素をはらんでいるから、です。

しかしわたし自身は、この問題に対して”見逃し三振”はしたくありません。

“最後までバットを振るべき”と思っています。

再三申し上げているように、現実的にはこの問題に協力してもらえるような弁護士はかなり少ないのですが、極力経営者の立場に立って協力してくれる弁護士もいることはいます。

そして「偏頗弁済」とならず関係者を救済することは、きわめて難易度が高いものの、“針の穴に糸を通す”ような綿密さを前提に進める方法はあります。

申立て代理人の弁護士や破産管財人から具体的な情報が出てくることはないでしょうし、「こうすればうまくいく」という情報もネット上に出回ることはおそらくはないと思われます。

ここに詳しく書くことはできませんので、「連鎖倒産を防ぎたい」「親族からの借入れをどうにかしたい」方は、どうか一日でも早く相談にお越しください。

(初出:2014年9月17日、最終修正:2021年1月21日)

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