倒産の実態
2023年03月01日

倒産の判断はいつするのか 【切迫倒産】と【予知倒産】 半年早ければ【改定】

経営危機に陥った経営者にとって大きな問題は、【倒産の判断はいつするのか】です。

・どのような状況が倒産を決断すべきタイミングなのか。

・そのタイミングが遅れるとどのようなデメリットがあるのか。

・倒産を早く決断できるとどのような影響があるのか。

経営者のタイプにより「倒産」決断のタイミングは異なる


経営危機が続き「倒産」を意識するようになった経営者にとって、倒産すべきタイミングを見極めることは簡単ではない。

仮に、似たような危機的状況下にあっても

・「なんの、まだまだ」と最後の最後までがんばる経営者もいれば

・「あぁ、もうだめだ」とさじを投げる経営者

もいるからです。

実際に、当事務所に相談にこられる経営者にも

・「最後の最後までがんばって、ついに力尽きたので相談に来ました」
とおっしゃる方と

・「このまま事業を続けていても可能性が少ないので、これ以上被害が拡大しないうちに相談に来ました」

とおっしゃる二派に分かれます。

わたしはこの2つのタイプを、倒産の局面において以下のように名付けています。

◆最後までがんばるタイプ=【切迫倒産】
・どうにもならないぎりぎりまで続けてきて倒産以外の道がない場合
・希望通りの処置がほぼできない倒産となってしまう

◆少し早めにあきらめるタイプ=【予知倒産】
・無理すればまだ続けられるが、この先の事業にほとんど希望が持てない場合
・ある程度は希望通りの処置が可能な倒産が実現できる

以下、それぞれにおいて倒産を決断した場合に、具体的にどうなるか。

最後までがんばる【切迫倒産】とは?


倒産とは、「未払い債務(=債権者)を残して事業を停止すること」ですが、最後までがんばる【切迫倒産】の場合は、

・倒産までの時間がほとんどなく

・倒産の処理費用もほとんどなく

・再起など次のステップへの準備もできていない

ような状態で倒産を迎えることになる。

つまり、【切迫倒産】とは、資金が完全に行き詰った段階で判断する倒産のこと。

そして【切迫倒産】は、下記のような典型的な様相を見せます。

・当月(もしくは翌月)の資金繰りがつかない

・すでに債務をいくつも滞らせている

・税金、社会保険の未払いがある

・給与などの労働債権も遅配や未払いがある

・買掛金(振出手形を含む)も未払いがある

・一般管理費なども未払いがある

・事業の将来性はない

こうなったら残念ながら「倒産以外の道がない」のです。

倒産すべきかの判断の難しいところは、このような最終段階になっても

・もしかすると明日大きな注文があるかもしれない

・もしかすると明日融資が実行されるかもしれない

というような、”かすかな可能性”にすがりたくなってしまうところにある。

以前に上記のような「危機をリカバリーできたラッキーな体験」があると、ついその成功体験に頼ってしまうものですが、何ヶ月も(何年も)そのようなラッキーが起こらなかったからこそ、現在の経営危機を迎えているのだということをぜひ冷静に認識していただきたい。

最後までがんばる【切迫倒産】で起こること


結論から申し上げると、わたしは経験者ですので倒産の判断が難しいのは痛いほど分かりますが、【切迫倒産】となるような「無理に無理を重ねて進むこと」はどうしても避けていただきたいのです。

こと、事業経営に関しては最後の最後までがんばるというのは、百害あって一利なし
つまり、倒産の判断ができずに逡巡している間に、状況はどんどん悪化していくのです。

もしそのような段階で、

・無理な借入れを起こしたり

・税金や社会保険の支払いを遅延させたり

・買掛金の支払いの先延ばしなどの方法で会社の延命を図ったり

すると、最終的に破綻したときにそれらの努力のすべてがマイナスに作用してしまいます。

具体的には、

・税金や社会保険という優先債権を残したために、会社の財産(売掛金や金融機関の口座)が差押さえられてしまう。

・無理な借入れのために、連帯保証人や抵当権を増やしてしまう。

・買掛先に「だまされた」と言われ、人間関係を壊してしまう。

・社員に給与などが払えなくなり、恨みをかってしまう。

など、経営者自身・取引先・社員・親族などが大きなダメージを負うことになってしまうのです。

では、いったいいつ事業停止(倒産)の判断をすればよいのか。

少し早めにあきらめるタイプ【予知倒産】


一方、【切迫倒産】の前段階に当たる【予知倒産】の場合はどうなのでしょう。
結論から申し上げると【予知倒産】が可能な段階で、倒産の判断をしていただきたいと強く申し上げたいのです。

(繰り返しになりますが)倒産とは「未払い債務(=債権者)を残して事業を停止すること」ですが、少し早めにあきらめる【予知倒産】とは

・倒産まで時間に余裕があり

・倒産処理費用もある程度あり

・倒産後の次のステップへの準備もできている

ような状態で倒産を迎えることを言います。

つまり、【予知倒産】とは、資金が完全に行き詰まる前の段階で判断する倒産のことです。

そして【予知倒産】の典型は、【切迫倒産】に至る少し前の様相を見せます。

・3~6か月後の資金繰りに不安がある。

・下記のうち1〜2件程度の未払いが発生している。税金、社会保険、労働債権(給与など)、買掛金、未払い金、など

・しかし、事業の将来性に希望は持てない。

さて、事業経営の最終段階では、いかに資金をうまくコントロールできるかが大きな問題になります。
具体的には、

・資金の調達(売上入金や、借入れ)

・支払いや返済の猶予(金融機関や買掛先、あるいは税金や社会保険、一般管理費など)

をいかにうまく処理できるかどうかが、その後の再起再生の死命を決することが多いのです。

もちろん可能であれば、「倒産」ではなく、債務の全くない【清算】の段階で事業停止することが望ましいのは言うまでもありません。

【清算】とは、借入債務もなく、買掛債務もない状態で、一切の被害者も出さないことですが、現実的には相当に難しいものであると断っておきます。

であれば、「被害者を最小限にすること」を志向するしかありません。

そのガイドラインは以下の通りです。

・税金は、会社の分だけ残し、社員個人の分は残さない。

・社会保険の未払いは最小限にする。

・借入れやリースは、代表者の保証の範囲にとどめる。

・買掛けは、連鎖倒産の起こりえない会社だけを残す。

・光熱水費などの一般管理費は残す。

このようにすれば、倒産に際してのダメージは相当少なくすることができます。

これらは【予知倒産】の段階だからこそできるコントロールです。

【切迫倒産】では、このようなコントロールはできないまま倒産を迎えることになります。

倒産処理は早ければ早いほうがいい


わたしが申し上げたいのは、倒産処理は早ければ早いほうがいい、ということです。

そうすれば、以下のような処置

・第二会社で事業の一部継続が可能になる。

・金融機関に返済する分を他の支払いにまわせる。

・つまり、連鎖倒産しそうな外注や下請先に支払える。

・社員に解雇手当の一か月分が支給できる。

・経営者の倒産後の生活費が確保できる。

が可能になるからです。

一方の【切迫倒産】では、これらの処置はほとんどできないまま、倒産を迎えてしまうことになります。

当事務所の相談に来られる方を見ていると、せめて半年早く相談にきていただければ、上記のいくつかは実現できたのに、と悔やまれることが非常に多いのです。

「倒産」という現実を認めることは、経営者にとっては大きな痛みを伴うという事実を、判りすぎるほどわかります判ります。

しかし、一日でも早く現実を受け入れ必要な処置を進めることができれば、倒産後の人生をある程度は希望の持てるものにできるのです。

ぜひ勇気を持って一度ご相談にいらしてください。

追記:法人の破産(それが少額管財であっても)を申し立ててそれが地方裁判所に認められる条件としては、「債務超過」であればよいのです。
債務超過でなければ、「あなたのケースでは清算処理をしなさい」といわれて追い返されるだけです。
(「会社に資金が残っていると地裁は倒産処理に応じない」と誤解されている方は多いものですが、決してそのようなことはありません)

半年早ければ…


わたしが申し上げたいのは、倒産処理は早ければ早いほうがいい、ということです。

このところの相談や問い合わせでは、
・偏頗弁済(へんぱべんさい)
・詐害行為(さがいこうい)
・優先債権
などについてが多くなっている。

実際問題として、(申立て代理人の)弁護士に相談しても
・払いたいところに払えない
・返したいところに返せない
・最後の資金を税金や社会保険に持って行かれた
という声も多い。

たしかに、倒産処理の原則として
[倒産の意思決定をした後は、会社のお金を特定のところに返済したり支払ってはいけない]
・それは偏頗弁済に当たり、詐害行為として管財人に否認され、返還される
・これに従わなければ、免責にならない
というものがある。

しかし、倒産に際して
・払いたいところに払いたい
・返したいところに返したい
・優先債権の税金や社会保険を優先されたくない
という局面のよくおこることも事実だ。

それでは、どうしたらそれが実現できるか。

わたしは常々、[半年早ければ]と言い続けている。

半年ほどの時間があれば、その段階はまだ[倒産]の意思を固めていない時期(まだ逡巡している時期)であることがほとんどだろう。
その時期であれば、
・払いたいところに払うことも可能
・返したいところに返すことも可能
・優先債権の税金や社会保険を優先されない
ような方法はあるのだ。

具体的には、
・第二会社などで事業の一部の継続の可能性はある
・金融機関に返済する分を他にまわせる
・連鎖倒産しそうな外注や下請先に支払える
・社員に解雇手当の一か月分が支給できる
・倒産後の生活費が確保できる
などの処置も可能になるというものだ。

もちろん、詐害行為や偏頗弁済のハードルはあるので、(申立て代理人の弁護士にもよるが)すべて満足のいく決着にはなる保証はないのだが、半年ほどの時間があれば実現の可能性は高い。

しかし、[今月資金が枯渇する]、[税金の未払いがあり差押えが来た]という段階(すなわち【切迫倒産】)になっては難しいのだ。
よって、[半年早ければ]と言い続けなければならないのだ。

倒産について最も重視しなければならないことは、
・倒産処理の後の生き方
・倒産はゴールではない。
・倒産は単なる[曲がり角]なのだ。
その曲がり角をうまく曲がり、その先に新たな道を見つけなければ倒産する意味はないのではないか。

そのためには、
◆【切迫倒産】最後までがんばるタイプ(希望の少ない倒産)
であってはならない。

どうか、半年ほどの猶予を持って
◆【予知倒産】少し早めに諦めるタイプ(可能性の残る倒産)
の段階で相談に来ていただきたいと心から願っている。

※ このエントリーは、2016年2月15日に作成したものだが、正確を期するために2023年3月1日にさらなる修正を行った。

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