倒産の全貌
2021年03月03日

倒産処理の種類 [B-a] 法人の破産

法的処理とは、[法人の破産]を裁判所(地方裁判所)に申し立て、裁判所の管理下(裁判所が選任した破産管財人の管理下)で処理が進められる方法である。
きわめてニュートラルに運用されるのでどこからも苦情が出ない処理方法である。

この運用がどれくらいの比率で行われているかの正確なデータはないのだが、廃業率との兼ね合いでは、全倒産会社の10~20%程度だろうといわれている。
思いのほか少ないと思われる方も多いだろうが、最も多いのは[放置逃亡]であるのは、いつの時代でも変わりはない。

この運用方法は、倒産処理の最も大事な会社の財産を換金しそれを債権者に配当するという作業を、裁判所の選任した破産管財人が行うことにある。
法人の破産は、個人の破産と大きく違って、必ず破産管財人がつくことと、免責という手続きがないことが大きな特徴である。

具体的にいえば、法人の破産を申し立てた段階では破産管財人は決まっていないので、はじめは倒産者の委任した申立て代理人の弁護士が、破産管財人が決まってからは破産管財人が会社の財産を換金して、債権者に配当されるという作業が行われる。

一般的には、税金や社会保険、その次に給与など人件費という優先債権や、弁護士費用や裁判所費用などの必要経費が支払われ、その残りから一般の(主に営業上の)債権が支払われる。

一般債権者には平等に配当されることになり、偏頗(へんぱ)と呼ばれる偏った支払いは認められない。つまり、特定の債権者に優先的に、あるいは多く支払われたりすることは認められなくなる。

もしそういうことが行われていたりすると、そのような行為は[詐害行為]と呼ばれ破産管財人によって否認され、返還が求められることになる。
この詐害行為になるかならないかについてはグレーゾーンであり、当事務所ではその判断を聞かれることが多いが倒産会社の環境によって判断は難しくなるため、じっくりヒアリングして個別にお答えするしかない。

会社の器具備品も管財人によって換金されるが、社員などがすでに無断で持っていってしまうことがあるが、これらも返還請求されることは起こり得ることだ。
とはいえ、近頃は会社の器具備品はよほど高価なものでなければ換金できることは稀で、ほとんどのケースでは処分費用を払って持っていってもらっているようだ。

会社が事業をやめる日には、倒産者が委任した申立て代理人の弁護士が会社に貼紙をし、同時に倒産者が作成したリストに基づいて債権者に代理人としての介入通知を出すことになる。

その内容はおおよそ以下のようになる。

・この会社は事業をやめ破綻処理に入った(法人の破産の申立てをする予定である)。
・わたし(弁護士)が代理人に委任された。
・すべての連絡は申立て代理人のわたしにされたい。
・当事者であるこの会社の社長には直接連絡を取らないように。
・債権者は債権額をわたしに申告されるように。
<申立て代理人(弁護士)の住所、氏名、連絡先>

そうなると、会社そのものには、郵便物も届かない、電話も架からない、社員も社長もいない、会社のあった場所には看板も何もない。登記簿上にはあるのに会社は存在しなくなっている。決算を行わなければそのうち(数年後)自動的に登記も抹消されてしまうことになる。

社員は、給与と会社の規定にあれば退職金、それに解雇予告手当(一か月分の給与額)が支給され、雇用保険に入っていれば、一定の手続きの後[失業保険]をもらうことになる(倒産は解雇なので失業保険はおおよそ一ヶ月ほど後にはもらえる(以前は一週間ほどだったが…))。

買掛金などの一般債権者は、申立て代理人の弁護士か破産管財人に債権の申告をして配当を待つことになる。まれに代表者などの連帯保証を取っている場合があるが、その場合は連帯保証人に債務の返済が求められることになる。
ローンやリースは、その物件を持っていかれてしまい、残ローン(残リース)は一般債権となる。

一般管理費関連(水道光熱費、賃借料、など)も一般債権となる。

金融機関は、本来は一般債権者なのだが融資などに抵当権や根抵当権が設定されていたり、連帯保証人がいる場合がほとんどなので(これを[別除権]といって法人の破産処理とは別に処理される)、抵当権や根抵当権が実行され(不動産であれば任意売却か競売になる)、連帯保証人に債務の弁済を迫る(直ちに弁済しないと差押さえや競売などが起こる)ことになる。それらに含まれない債権は一般債権となる。

売掛金は、だいたい最後の段階で経営者が回収してしまっている場合が多いものだが、もし残っていれば、申立て代理人の弁護士か破産管財人が回収することになる。

税金や社会保険が未納だったりすると、税務署や社会保険事務所が売掛金や会社の財産を差し押さえすることになる。

売掛先に社員が取りにいったり、債権者が取りにいったりして混乱する場合もあり、そのような場合、売掛先は支払いを拒否するケースもある。そのようにトラブッたりした場合には、破産管財人が裁判を起こして回収することもある。

法人の破産には[予納金]と[弁護士費用]が必要となる。
予納金の金額は、調べると必ず〝東京地裁での金額〝などと出ているように、実は地裁によって違っている。どうやら破産処理は地裁の裁量で処理するもののようで、この予納金も絶対的な金額ではないようだ。

[参考]東京地方裁判所の予納金額一覧
負債総額       法 人     個 人
五千万円未満     七十万円    五十万円
一億円未満        百万円    八十万円
五億円未満      二百万円   百五十万円
十億円未満      三百万円  二百五十万円
五十億円未満     四百万円   四百万円
百億円未満      五百万円    五百万円
百億円以上       七百万円~   七百万円~

[少額管材]という運用方法もある。法人とその法人の代表者個人の破産をワンセットで[二十万円]を標準額とするもので、東京地裁が開発したものだが、大都市以外の地方の地裁では採用していないところも多いので、事前に確認を要する。詳しくは[少額管財]を参照されたい。

予納金とは、地裁が依頼する破産管財人の費用であると考えていいだろう。破産管財人になる弁護士は、あらかじめ破産管財人がやりたいと地裁に届けてある弁護士が選任される。
破産管財人の報酬としては、それ以外にも回収した債権からも支払われる。負債総額によって予納金額が違うのは、難易度というか作業量が多くなるであろうから高くなる、ということだと思われる。

少額管材]が設定されたのは、簡易に運用できて破産管財人の負担が少ない案件であれば小額にしてあげよう、という配慮だと思われる。

そのためには申立て代理人の弁護士が申立て前処理をしなければならないため、申立て代理人の弁護士費用は多少かかるが。上にあげた負債金額別予納金よりははるかに安く済むことは言うまでもない。

小額管材に関しては、(ここに最大の問題があるのだが)、すべての地裁で受け付けてくれるわけではない。ローカルの地裁では、「そんな運用方法は扱っていない」とむげに断られることが多い、ということだ。
東京地裁に限らず予納金は申立て代理人の弁護士と地裁の間で交渉が可能になるようだが、このことを知らない弁護士は意外に多いものだ。

申立て代理人の弁護士費用は、作業量と難易度によっての高低があるようだ
すなわち、買掛先がたくさんあったり、ヤミ金があったり、あるいは売掛先がたくさんあれば弁護士の作業量も難易度も増すであろうから、そのようなケースでは高くなるものだ。

その弁護士費用については、弁護士が決めるのであるからここに書くのははばかれるが、わたしが見聞した範囲では、百万円から五百万円程度であった(最多価格帯は百二十万円~百八十万円程度か)。倒産処理にはそれほどの差があるということだと理解していただきたい。

ただ、[申立て前処理]をしっかりやって倒産者の利益を守ってくれる申立て代理人であれば、この費用を投下する以上の見返りはあるということを、ここに申し添えておく。

申立て代理人による[申立て前処理]が終わったら、地裁に破産の申立てを行う。
この申立て前をやらない申立て代理人だと、売掛金の入金前に申し立てを行ったりするので、その売掛金を労働債権に充てるようなことはできなくなる。

会社の財産の売却や売掛金の回収を終えると会社の財産が確定する。
それから債務の配当に入る。

裁判所で債権者集会が行われ、財産の確認とその配当の確認が行われるが、これはセレモニーとして行われるようなもので、よほどのことがない限り反対意見は出ずに認められ、配当が配られて終結となる。

配当率は、会社の財産と債務によるが、ほとんどのケースが10% 未満だ。その資料があらかじめ郵送されるので債権者集会の出席率は少なく、債権者数が百社あっても数人しか出席者がいない(債権者が数十社だと債権者がいない)ケースもよく見かける。
これで、異議申し立て者がいなければ破産手続きは終了することになる。

この間、早い場合は三ヶ月。遅くとも半年程度で終結する(東京地裁の場合)。

倒産には、必ず連帯保証人の個人破産がついてまわる。
中小零細企業の倒産には、金融機関からの融資に代表者の連帯保証がほとんど100%ついているので、代表者の個人破産は避けられない。

この法人の破産の手続きは、代表者の個人破産は[少額管財]以外は直接関係はないが、実際問題としては法人の破産だけでは済まなくて、個人破産はついてまわることになる。

個人の破産については別のところで詳しく触れるが、今まで述べてきたなかで、弁護士費用はこの代表者などの連帯保証人の破産が含まれていることをお断りしておく。

わたしが今まで見た中で最も多かった例は、地方都市の〝本家〝が経営していた事業で〝分家〝筋の連帯保証人が八人いたケースだった。
合計九人の破産者を出しそのすべての不動産が競売になって事業が終結したのだが、それらの不動産が一括してその金融機関の手で再開発されていたのを後で知ったときには、わたしは心の底から怒りがこみ上げてきたものだった。

この[法人の破産]の最大の問題点は、費用が掛かりすぎるということだ。
最低ランクで[負債総額が5,000万円以内] (そもそも負債総額が5,000万円というのはかなり大型倒産だ)で、[法人の予納金が70万円][代表者個人の予納金が50万円]、[合計で120万円]もかかる。
さらに、[弁護士費用が100万円前後]かかってしまう。

このために、その費用がまかなえないために、[逃げる]、[死ぬ]、すなわち[放置逃亡]が簡単に起こってしまうのだ。

よって、この法人の破産を選択するには、
・[少額管財]の道を徹底的に追求すること
・それが実現できる[弁護士]を確保すること
・倒産の判断を早めにすること
が求められる。

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