申立て代理人と破産管財人
2021年07月14日

破産管財人の実態

倒産の法的処理(法人の破産)には、必ず破産管財人が出てくる。

破産管財人は弁護士でなければならず、地方裁判所や弁護士会の法人の破産に関する研修に参加した弁護士が有資格者となる(東京地裁の場合)。
その資格を得た弁護士は地裁(地方裁判所)に破産管財人をやりたいとの届け出を行い、その届け出のある弁護士が、地裁によって選ばれる。

著名な弁護士や、有能で忙しい弁護士の多くは破産管財人を嫌がる傾向があるのは事実である。

倒産(法人の破産)の案件では倒産会社は全財産を失うことが前提なので、弁護士の仕事として依頼人と将来的に発展の可能性はないし、さまざまな債権者を相手にすること(ヤミ金やサラ金、さらにはたちの悪い債権者が弁護士事務所に乗り込んでくる場合もある)もあって、敬遠されがちになるのである。

では、どのような弁護士が破産管財人になるかというと、いくつかのパターンがある。

①食えない弁護士(あまり忙しくない弁護士)
-大都市の弁護士の中にはあまり仕事にありつけない弁護士も結構いるものだ。
後述するが、破産管財人をやるというのはけっこうおいしい場合もあるので、食えない弁護士が登録しているケースは多いものだ。

②独立直後の弁護士(イソ弁から独立したばかりの弁護士)
-独り立ちした弁護士は仕事であればどんな案件でも欲しいものだ。
破産管財人もそうだし、国選弁護士や、弁護士会主催の法律相談など。
その中でも破産管財人は魅力的な仕事のようである。

③イソ弁がいる弁護士(イソ弁の仕事を確保するボス弁護士)
-イソ弁(通称:居候弁護士。ボス弁護士から給料をもらって働く勤務弁護士のこと)にやらせる仕事の量に不安があるボス弁護士は、破産管財人の仕事をいただいてイソ弁にやらせるケースも多い。

④信念を持った弁護士(破産管財人の仕事が好きな弁護士)
-めったにいないが、弱者のために役に立ってやろうという弁護士もいるものだ。
倒産の危機に瀕した経営者を再起させることは、破産管財人としてはとてもやりがいのある仕事だと思うのだが、実はこの手の弁護士は驚くほど少ないのが実情である。

こんなところだろうか。

破産管財人の報酬は、倒産会社が納付する[予納金]の一部と、倒産処理で得られた倒産会社の財産の一部(額や比率は地裁と協議する)になる。

少額管財で倒産会社に財産もない場合は、[20万円]ほどしか得られないことになる。
大きな倒産案件では、100万円以上の予納金に加え、売掛金の回収や倒産会社の所有不動産の売却などで得られた財産があるため、[1,000万円]を超える報酬が得られる場合もある。

そこで、より報酬の期待できる破産管財人の案件を得るためには、地裁からの評価が重要な意味を持ってくる。
そのために、 少額管財などのような規模の小さい案件でも〝全力投球〝して地裁の評価を高めようとする弁護士もいる。

地裁の評価とは、倒産会社の財産をより多く確保する、配当率を上げる、のような傾向が強いため、倒産会社(の経営者)が絞られるようなことがおこり得る。
もちろん、いただける報酬が少ないのであれば〝それなり〝にしかやらない、という弁護士の方が多いのは隠しようのない事実だが。

倒産会社から破産管財人についての話を聞くと、

(A) 全然やる気がなくて形式的なものだった。
(B) 財産などを徹底的に洗い出されて厳しかった。

おおよその比率は9:1もしくは8:2程度だが、上のふたつに大別されるようだ。
地方都市ほど(A)が多く、東京などの大都市(弁護士間競争が激しいエリア)ほど(B)が多くなる傾向だ。

破産管財人の対応によっては、倒産会社(の経営者)には天と地ほどの違いが起こり得るのである。
倒産会社としてはどのような破産管財人に遭遇するのか、これは天のみぞ知る、というのが実態である。

破産管財人の作業は、基本的には申立て代理人の弁護士から引継ぎを受け、当該の法人の破産案件の終結までを担務することになる。

※ 以下は東京地裁管轄の弁護士(破産管財人をやっている)からのヒアリングによる。
引継ぎ段階で、予納金や換金されたお金は申立て代理人から破産管財人の口座に振り込まれるようだ。

◆申立て代理人の弁護士から引継ぎ
①倒産に至った経緯の確認
②倒産者からのヒアリング
③会社(及び代表者)の財産の一覧
④上記の現金化(回収や売却)
⑤会社(及び代表者)の債務の一覧
⑥債権者集会の実施

◆当該の法人の破産案件の終結
⑦可能であれば配当の実施

予納金が20万円となっている小額管財の場合は、破産管財人の作業量を少なくするのが前提となるので、作業項目は上記のようになるが、その作業量は大幅に少なくなるのが一般的である。
このことは、申立て代理人の作業量が多くなることであり、働きの悪い申立て代理人に当たった破産管財人はたくさんの作業量を抱えて苦労することになる。
[申立て前処理]についてはこちらを参照されたい。

倒産(法人の破産)処理のポイントは申立て代理人の弁護士の選定が最も重要であり、選ぶことのできない破産管財人のことは考えてもしょうがないのである。
くれぐれも、事務的に対応する傾向が強い大型の弁護士事務所などには依頼しないことだ。

具体的には以下のような展開になることが多い。

①倒産に至った経緯の確認
これは申立て代理人から申し送られる。
破産犯罪の可能性があるかどうか、などがチェックされる。
もちろん、財産を隠したりの詐害行為があるとチェックされ、否認の対象となる。

②当事者(倒産者)からのヒアリング
第一回は申立て代理人が同席のうえで、破産管財人の弁護士の事務所で行われる。
面談はほとんどがこの一回で済み、電話での問い合わせや追加資料の要請はあるが、大きな問題がなければ淡々と進むことになる。

③会社(及び代表者)の財産の一覧
換金可能な財産の一覧を確認する。
一般的には、換金された後で破産申立てをするが、中には換金作業を破産管財人に預けるような形で申立てをする代理人もいるのである。

④上記の現金化(回収や売却)
財産はすべて換金される。
本来は申立て代理人の作業領域であり、これらの財産が換金されてからの破産申立てが一般的だが、売掛金の回収期日が先の場合など例外もある。
これらの換金されたお金は、破産財団の銀行口座(破産管財人の弁護士の口座)にすべて蓄積されることになる。

⑤会社(及び代表者)の債務の一覧
債務の調査は、申立て代理人の弁護士が債権者に債権調査をしているので、その正否を確認する作業を当事者とともに行うことになる。
不当な債権者の主張などはここで否認されることになる。

⑥債権者集会の実施
債権債務の全体像が判明した段階で債権者集会を地裁内で行う。
ここには当事者も申立て代理人の弁護士も参加する。
債権者は、当事者が倒産したことが判明しているので(配当も期待できないのが判明している)、参加はほとんどないのが実情である。
ここで、債権者は異議を申し立てることができるが、これもめったにない。

⑦可能であれば配当の実施
このところの破産運用を見ていると、配当がゼロのケースが大変に多い。
配当が可能な場合は、破産管財人によって配当が実施される。

ここで、倒産(法人の破産)案件(小額管財)が終結することになる。

※ このエントリーは、2012年12月28日に作成したものだが、より判りやすくするために2014年4月2日に修正した。

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